「電通大でニューラルネットワークやってたんだから、専攻は情報工学でしょ?」って会社の人からは言われますが、僕の専攻していたコースは化学生命コースで、その中の脳神経科学の研究室にいました。

なんで、研究室のある棟にいた同僚たちは、マウスの薬品を投与したり、細胞を培養したり、有機化合物を合成したりしていましたし、授業で代謝とか遺伝子とか神経の勉強をしていました。

じゃぁ、生物の人がなんでニューラルネットワークやってんの?ってなると思うんですが、脳神経の働きって電気的なものなんで、細胞膜とかチャネルから計測した電気的特性(抵抗とか容量)をLRC等価回路に置き換えると、神経細胞の働きを数式で表すことができるんです。こういった神経の数式モデルはホジキンハクスレイやイジケビッチ、リーキインテグレーターモデルとか言われています。

で、今流行りの人工知能のニューロン(ノード)はReLUとかソフトマックスとか人工知能独自の数式で表されているんですけど、それを神経の等価回路に置き換えると、数千個、数万個の神経細胞からなる神経回路の働きを丸ごとシミュレーションすることができるわけです(ちなみに本当はこっちが今の人工知能の原型でかなり古い研究なんですが、AIがあまりにも有名になりすぎて忘れらられている感があります)。

 

それで、話が若干飛ぶんですけど、いわゆる世間で言われている脳科学ってものは実は存在しなくて、いろんな学問の人が脳の研究をしているわけですが、テレビとかで紹介される脳の知見って「認知心理学」の実験で得られたものが多いんです。ただ、皆さんがイメージするように、脳を研究しているメインの人は神経科学の人たちでその人たちからは受け入れられていなかったりするんですよね。

同じ人の脳を研究している「認知心理学」と「神経科学」の違いは認知心理学が人を用いた心理学実験の結果を脳の構造を落とし込むトップダウン的なやり方を取るのにたいして、神経科学は細胞レベル(はたまたDNA、RNA、たんぱく質レベル)で観測された結果を集めて脳の構造を探るボトムアップ的なやり方を取るわけですが、上からきたものと、下からきたものがすべて同じところに落ち着くわけではなく、食い違うことも多々あるわけです。

で、僕の研究テーマは「ワーキングメモリの神経機構を探る」ことでした。

ワーキングメモリは長期記憶、短期記憶とは別のプロセスで情報を一瞬だけ保持する第三の記憶のことです。世間では一般的な言葉ですし、他の学問領域でも普通に使われている概念ですが、これを最初に提唱したのはジョージ・ミラーという認知心理学者で神経科学ではあまり研究されておらず、その存在も認められていないという状態です(それは言い過ぎた)。

というのも、人を用いた実験で発見されたワーキングメモリですが、認知心理学では神経的なメカニズムを解き明かすことは不可能で、現象として存在は知られているけどその原理や根拠は不明という宙ぶらりんな状態です。

ただ、ワーキングメモリが存在するとされている場所は脳の一番奥の方(意識に近いところ)でかなり大規模なネットワークなのでミクロな視点で神経を見る神経科学では扱うのが難しかったりします。

 

だから、そこでニューラルネットワークの神経シュミレーションの出番なわけです。

このAIブーム(第3次)が起こった理由でもありますが、最近のコンピュータの計算能力は半端ないわけです。神経細胞に近いウェットなノードは複雑な式で表されるので普通のニューラルネットワークのようには行きませんが数万個のニューロンの活動を短期間でシミュレーションすることが可能です。

さらに、AIブームによってさまざまなアルゴリズムが開発されました。

そのなかで、RNN(リカレントニューラルネットワーク)の機構が僕がシミュレーションする前頭前野の層内結合の働きに近いと考えました。

この他にも神経科学ですでに発見されている神経機構や認知心理学の知見、他の人工知能のアルゴリズムをなどを混ぜ合わせながら、自然な神経機構を模索しつつウェットなニューラルネットワークで大規模に試すということをしていたわけです。

こういう研究は統計的な根拠じゃなくて、ちゃんと科学的な根拠を示すためにシミュレーションを行ってその概要を明らかにして、最終的に生身の細胞を用いた実験で立証するという流れだったのだと思いますが、どこまで行っても雲をつかむような話が続きました。実科、学でこれで100%分かったというふうにならないのはわかっていますが、何を信じるのか見極めるのが難しかったですね。

修士2年の後半では毎月のように学会に行って先生たちに返り討ちにあってました。2年間という期間はあまりにも短すぎたというのもあるかもしれません。まぁそもそもヘッポコ修士が勝手に始めた研究ですし笑。

ただ、一応形になって修士を卒業することができたし、修論には大学から努力賞をもらえたのでそれなりにはなったのだと思います。

ついでに、卒業際に先生が僕の修論をもとに研究室から学会誌に出すといってくれたので、そこまで的外れなことをしていたわけじゃないと思っています(アクセプトされたら連絡してくれるそうですが、いまだに連絡は来ないですね笑、まぁ頓挫したならそれでもいいんですけど)。

 

なんかこのブログでいろいろ大学のことを書いてますが、お前はいったい何をやってたんだ?って思う人もいるのではと思って書いてみました(需要ない?)。

そのうち自分でも忘れてしまうと思うので備忘録でもありますけど。

 

それでは。