ここ数年企業のAIへの投資額は毎年、数十パーセントの割合で増えています。

2020年からベンダー側で企業のAI導入をデータサイエンティストとして支援していますが、どんどん仕事が増え続ける現状に疑問を感じてしまうんですよね。

自分が働き出す前、10年以上前からこの状況は続いていると思いますが、日本の伝統的企業からGAFAMみたいな先端企業含めてずっと「本業で稼いだ資金をAIに投資して溶かす」という状態が続いていると感じています。

正直今のAI界は浮足立ってしまっていて、実質的な価値を生み出せている状態ではないです。お金が増えているように見えるのは、別の事業によって得られたお金が集まっているだけで、エンジニアの人件費とAIモデルを運用するサーバーの電気代にお金が浪費されているのが現状です。

そして、本当にAIによって成果を出すには一旦正気に戻って無駄なところにお金を払うのをやめ、かけるリソース最適化する必要があります。極端に言ってしまえば一旦AIから手を引いて様子をうかがうのは正しい判断だと考えています。

なぜ成果が出ないのに、もう何年もAIにお金が集まり続けるのか?

なぜAIへの投資額が継続的に増え続けるのかというと理由はこんなところだと思います。

  • ほどよく技術革新が起きて、できることが増えるので期待値が下がらない
  • ほかに投資先がないのでAIに投資するしかない
  • 競合他社がAI活用してるのではないかと焦ってしまう

これは別に間違っているわけではないですが、毎日毎日、業務で顧客の(最近は社内も)業務変革をAIで実現するために実際にコードを書きながら、AI導入を推進している身からすると、今は静観しているのが賢い選択だと思っています。

もちろん、これをお客様に言ってしまうと仕事がなくなってしまうので、直接的には言いませんが、プロジェクト開始時には、かなりの時間をAIの現実を知っていただいて、関係者のAIへの期待値を下げるということに費やしています。

それでも、AIと向き合うというのならもちろんお金をいただける限り自分は働きますが、現実を知ったうえで諦めることには悪いことは言いませんし、むしろ賢い選択をされたと思っています。

ここ数年間はAIへの向き合い方として正しいのは、有志による技術調査や個人レベルの業務適用にとどめておいて、ベストプラクティスと言えるモデルや手法が確立されてそれを導入できるベンダーや人材が世の中に増えてくるまで静観するくらいでいいと思います。

逆に、焦ったり浮足立って、多額の予算だけ先にとってしまい、データも、課題も、知見もないのに資金をAIにつぎ込んでしまうとあっという間にお金を無駄にして、社内外にAIに投資して失敗したという負の実績をアピールすることになってしまいます。

会社全体の売上からしたら大した額ではないのかもしれませんが、年々膨らむAIへの投資額を考えると、サンクコストは無視できなくなります。

それに、昔はAIへの投資は正直エンジニアやデータサイエンティストの人件費やサーバー代等そんなに高くなかったですが、生成AIの登場で決して安くない額をAIへのランニングコストとして支払う必要が出てきました。また、AI活用のための社内の作業コストも馬鹿になりません。

ここは一旦落ち着いて周りを見渡すことが大切だと思っています。

ここからは、AIの投資には慎重になるべき理由をここから書いていきます。

現在のAI技術がビジネスに与える影響はどんなにうまくいってもわずか

最初にもっとも核心的な理由を上げます。

現状のAI技術のビジネス導入がどんなにうまくいっても、企業の業務に与える影響は本当に僅かなものにしかなりません。

そんなこと言ってしまっていいのか思うかもしれませんが、AI導入にあたってROIを計算するために企業活動にどうAIが貢献するのかをまじめに計算するとどんなに、理想的なシナリオで全く技術的な問題なく完璧にAIを業務にできたとしても、その利益はたかがしれています(業務レベルでよくて売上比で数%、部門レベルなら0.数%、企業全体見れば現行のAI技術が貢献できる利益は無視できるレベルです)。

AIシステムはITシステムなのに利用すればするほど導入効果が出るわけではないというのは、IT関わっている人間なら少し奇妙に感じるかもしれませんが、これはAIは使えば使うほど人にも負荷がかかる(人の時間を奪う)性質によるものです。

なぜ他のITシステムと違ってAIは使えば使うほど人に負荷をかけるのかというと、一言で言ってしまえば挙動が安定しないからです。AI以外のシステムはバグがなく完璧なシステムなら(現実的にはありえませんが)、間違えることはありませんし、バグがあってもちゃんと開発されたシステムならその割合は限定的です。そして、その不具合も一部の担当者だけで対策できます。

ただ、AIがシステムに組み込まれてしまうと話は違ってきます。AIの挙動が完全に同じ条件でも常に正常な動きをするわけではなく、さらに未知の入力に対して100%正常に動くことは絶対にありえません。AIを使ったシステムやアプリケーションで9割以上の精度をうたっているものがありますが、ものすごく上手くいったケースか、かなり限定的な入力に対して精度を算出してもので、実際のAIシステムがりに動く確率は70%はかなりいい方で、50%を下回ることも多いです。

ただ、仕事で50%の精度でもいいタスクというのはなかなか存在せず、間違えたAIの仕事の責任は誰かがとることになります。ここで大事なことはAIは法的に責任をとることができないので、誰かがAIの出力チェックして、間違えに対して責任をとる必要があるんですよね。

となると、AIが動かせば動かすほど、人によるチェック作業と間違えに対して責任をとる必要が出てきてAIの導入効果は目減りしていきます。そして、詳しくは書きませんが、AIシステムは永遠にメンテナンスが繰り返していく必要があるため、メンテナンスコストもかかり続けます。

さらに、人間の業務でAIが適用できるところって本当に限定的なんですよね。何か月もかけて開発したAIシステムも人間に貢献できる部分はわずかです。そして、貢献できる部分も結局人間の負荷がなくなるわけではないので、その効果はわずかです。

せっかくAIを業務で使い始めても、その効果は本当に限定的で開発コストを考えると投資価値があると判断できるのケースを見つけるのは至難の業になります。

さらに、忘れてはいけないのはAIプロジェクトの成功率は10%程度と言われることです。プロジェクトの難易度にもよりますが、私はデータを用意してPoCを実施して運用してシステムを開発するような基本的なAIプロジェクトがプロジェクト初期に目標として効果を達成するのは数%と考えていて、それは生成AIを使ったプロジェクトでも変わらないと思っています。簡易的なRAGなどはそれよりも高いかもしれませんが、AIエージェントを自業務に最適化して運用する場合はもっと低くなると思われます。

となると、AIで例えばIR情報に乗せられるくらい利益をあげるのは夢のまた夢というか、現状AIで経営的に無視できない利益を上げていると主張している企業はすべて嘘をついていると思って問題ないと思います。すべて投資家からお金を集めるためのハッタリです。

この記事で自分が読んでくださった方に伝えたいことはそんなハッタリに騙されずに地に足つけた行動をとってほしいということです。

千に三つしか本当の話はない不動産業界では言われているですが、AI業界は千三つどころか千ゼロの世界です。夢と幻とわずかな技術でできた偶像に多額のお金が動いていつの間にか消えていくのが日常の世界です。昔は企業活動全体から見たらはした金しか動いてませんでしたが、どんどん信じられないお金が夢と幻に支払われて消えていくようになりました。

何度も言いますが、この詐欺と狂気が横行する千ゼロのAI界に足を踏み入れてしまったならば、一旦冷静に立ち止まって正気を保ってください。

私もAIが完全に無価値だとは思ってないですし、私の業務でも文章作成やコーディングの面では生成AIは不可欠なものになりましたが、それほど劇的に業務が効率化されているわけではないですし、AIが使える業務は全体のほんの一部です。それはこの記事を読んでいる方も同じだと思います。そして、それはあなたの競合企業も同じなので焦る必要ないです。

生成AI(LLM)の登場でAIができること増えたけど、ランニングコストも格段に増えた

データサイエンティストとしてAIにコードを使って直接触れていた人間、特にAIモデルの学習をまじめにやったことがある人間からすると、LLMは本当に本当にすごいです。

正直、言葉を処理する自然言語系のモデルの中では圧倒的な性能があります。みんなお金と時間を使えばこれくらいの性能のモデルは作れるのでは?と思ってはいたものの、実際に開発したモデルでどこまで性能が引き出せるかわかったことは大きな価値があります。

そして、LLMの登場で性能の他にわかったことがあります。それはAIのランニングコストの高さです。特にこれはある程度専門性があり、それなりの思考プロセスをAIエージェントに実施させた場合顕著に表れますが、人間が数十分から数時間、AIエージェントなら数分から数十分でできる作業に、数十円~数百円のコストがかかります。もしかすると、ちょっと動かすだけで1000円以上のお金がかかってしまうAIエージェントも今後出てくるかもしれません。

最近ひたすら、人間の作業フローをAIエージェントが事項可能なフローに置き換えて、AIエージェントを実装していくということをやっていましたが、専門性が高ければ高いほどフローが複雑になっていき運用コストも上がっていきます。

となると、たとえAIが実施できる業務が増えたとしても、学習と運用に莫大な資金が投じられて動いているAIに実施させるか、人間に実施させるかどっちが安いかという話にどんどんなっていくと思います。

これは、開発者としてAIシステム(特に今はAIエージェント)と向き合っている人間しかわからない感覚かもしれませんが、システムの実装のために人間の仕事を分析していくと、人間の脳の性能の高さにとにかく驚かせられるんですよね。

学習能力や適応能力はもちろん人間の脳は高いことがわかっていましたが、LLMの登場により人間の脳はエネルギー効率も相当高いことが証明されました。そして、それはAIが内熱機関におけるカルノー効率のように理論的に超えられない壁のように感じています(私がそう感じているだけです)。

そんな状況のなかとるべき正しい選択は情報を集めながら、AIの導入効果を得られやすい領域を見極めていくことだと思います。それがまったくないという確率もありますが、自分はいくつかの業務はAIを導入することで成果が出やすいということがわかってくると思います。そして、方法論もある程度確立されたうえで満を持してAIに資金と投じるというのでも全然遅くはないです。

そもそも先駆者が損をするのがAI業界

自社に知見を蓄積して競合より高い品質で製品を提供するときのが日本のものづくりの基本的な価値観であり、これは製造業以外でもある意味美徳のように定着していると思います。

ただ、この原則が成り立たないのがIT業界であり、AI業界なんですよね。

特にAI業界で顕著ですが、オープンソースという考え方があり、研究や業務で得られた知見は余すことなく公開するという文化が根付いています。

優秀なエンジニアであればあるほど、無料で公開されているインターネットの情報だけで、必要な知見をすべてそろえることができます。

LLMに限ってはモデルの具体的な設計は公開されていたことが多いですが、正直今のLLMのモデル自体を直接改善できる日本企業はなく、利用するだけですし、利用するために知見はあらゆるところで公開されています。

こういう知見は日本じゃなくて全て海外の凄い方から発信されていきます。知見そのものだけじゃなくて、その知見を実際に業務に適用してどうだったのかそういうところまで細かく公開されます。

技術自体もほとんど無料で提供されているんですよね。無料の技術を使って自身の業務で利益を出しながら、そこで生まれた技術を恩返しのように公開していくそれが基本原則のようになっています。なので、企業秘密や特許で技術がガチガチに守られているハードウェアの世界とはソフトウェア特にAIは事情が違っています。

そんな中、AIに取り組んで結果?を出している企業はgoogleのようなとてつもなくお金とデータを持っていて、さらにエンジニアを抱えている企業です。正直、日本にそんな会社は存在しないと思っています。特に昨今のLLMの開発競争に日本企業が参加したら確実に痛い目にあいます。

莫大な資金をボランティアにつぎ込む覚悟ないなら、AIの技術開発に挑んでも数か月から数年かけて開発した技術よりもはるかに優れた技術が無料で公開されている(もしくはお金を出せばだれでも使える状態になっている)状態になっています。そうじゃない結果を出せる企業は日本にはないことは断言できます。

ならば今は待ってやるべきことが世の中的に安定してくるのを待つべきだと思いませんか?おそらくですがそこまでいけば導入するための労力も今よりも格段に下がっているはずです。

現時点でも別にAIに投資している金額は大した額ではないのかもしれません、ただAIを業務に使うには導入するときも運用するときにも利用者に大きな時間的精神的負荷をかけてしまうことを思い出してください。

不安定な技術を現場に取り入れてしまい利用者に負荷をかけるのは、長期的に見てもAIの導入に大きな悪影響を及ぼします。また技術的にも中途半端に導入したものが負のIT遺産として残る可能性もあります。

ずっと感じていたことが、ここ数か月特に顕著に感じるようになったので衝動的に文章化してしまいました。できれば、AIを業務に導入しようと考えた人全員、すくなくとも、AIに対して多額の決済をしようとした人全員に一度はこの文章を読んでほしいです。

AI導入はただでさえ難しいことなのに、狂気を原動力に動いても上手くいくわけがありません。AI界はものすごい勢い進歩しているようで、ここ数年も(第三次AIブームが始まった10年前から)本質的なことは全然かわってないので、焦る必要は全くないです。地に足つけて判断が重要だと思います。

それでは。