最近、ドットコムバブルのようにAIへの期待感が減衰して経済が低迷するのではないかという話の中で、AIバブル崩壊という言葉を目にするようになりました。

2024年現在、AIバブル崩壊と言っているのは、主に経済や投資関連の人だと思いますが、データサイエンティストやエンジニアとして自らの手でAIと向き合ってきた自分からすると、AIバブルが崩壊することは当たり前のことで、今さら語ることではないと感じます。

ただ、AI業界で生きている人間はあまりAIに対してネガティブなことを語ることはないので、私以外にあまりこの主張をしている人はいないのだと思っています。

正直、AIバブル崩壊という言葉は数年前から聞いてはいたし、AIの実情を知る人の中にはこれで投資が切られないのが逆に不思議という方もいたと思います。

それでも、自分がこうして記事にするのは、AIバブル崩壊は必ず起きるものだし、むしろ今後AIが社会に利益を創出していくには必要なことだと考えているからです。

ということで、今回はAIバブルについて考えてみます。

 

現在状況がAIバブルである理由、それはAIへの投資対効果がマイナスだから

自分がこの業界にやってきたのは2020年でまだそれほど長い期間いるわけではありません。ただ、それまでも情報系の大学にいたのでAIやデータサイエンスを学んでいて(本格的に取り組んだのは大学院から)、一応日本の第3次AIブームは傍で見てきたと思っています。

なぜ、AIをやっているかというと単純に需要があるからで、研究室の研究でもAIをやっていると書けば助成金がもらえるし、当時参加していた脳神経科学の学会でも注目されました。就活でもAIをやってきたと言えば面接官の高評価をもらえるし、就職してからも仕事がたくさん来ます。

これまでずっと膨らみ続けるAIへの投資の恩恵を受け続けてきたわけですが、同時に膨大な投資額に対してAIが実際に創出した価値(お金や時間)は限定的だなと思い続けてきました。

特に定量的な指標は出しません、気になる人はネットで調べてもいいですが、みんなAIの真価について議論するのが怖いので(AI実情を関係者以外が知ったらそれこそAIバブルが崩壊するので)、AIに対しては肯定的な評価をあえてしているのだと思います。

どれくらいAIの投資対効果が悪いのかイメージするためにAIプロジェクトの実情を軽く書きます。AIプロジェクトではほとんどの場合PoC(コンセプト検証)と呼ばれる、実施したいことを本当にAIで実現できる検証するプロジェクトを実施します。

実際のデータからAIモデルを構築し、その精度やビジネス効果の大きさを確かめて、プロジェクトを進めるのか検討するのですが、AIプロジェクトのPoCの成功率は1%~10%と言われています。

正直10%を超えると主張しているところがあったら嘘だと思います。自分は5%でもすごいなと感じます。テーマの特性やAIを運用する業界などでも成功率は違いますが、それほどAIに関する知見が蓄積していない組織がAIに取り組んでも成功率は1%がいい方です。そして、100回実施する前に大体のAI活用を大体諦めます。

このPoCプロジェクトのコストは、内製なのか外注なのかで大きく違いますが、最低でも1回あたり50万円、多い場合だと5000万円かかります。おそらく500万から1000万あたりが相場だと思いますが、それだけ多くの金額をかけて9割以上は水の泡となるわけです。恐ろしい世界です。

PoCが成功したとしても、AIをビジネスの現場で動かすには何らかのアプリケーションやシステムが必要で開発費がかかりますし、AIモデルによっては巨額の運用コストがかかる場合もあります。

晴れて実運用に至っても、実際運用してみたら想定していたより得られる利益が少なく、運用コストが上回ってしまうこともありますし、AIはデータの変化に対応できず精度が下がることがあるので、運用後に精度が下がってPoCのやり直しになる場合もあります。

ここまでの説明で、AI業界全体で期待できる投資効果はかなり低いということがイメージできると思います。

自分は今までGAFAMのような一流企業はROIが1超えていると思っていましたが、今回のAIバブル崩壊騒動でそういうわけではないような話もでてきました。

モデルとして正直これ以上のモデルは誰も作れないのではないと思うくらい優れているChatGPTを開発したOpenAIですら赤字という状態です。

もしかしたら、本業で稼いだお金や投資家から集めた莫大なお金を成功率の低いPoCに費やし、データサイエンスやエンジニアの汗と涙もしくは、GPUの電気代に溶かしているのが、2024年現在のAI業界実情なのかもしれません。

実際の価値よりも、莫大なお金が投資されて消えている現状が何年も続いている今のAI界隈をバブルと呼ばずになんと呼ぶのでしょうか?

 

AIの投資効果を目に見える形で高めなければ、AIバブル崩壊後はAIプロジェクトは消えてしまう

AIの投資対効果が低いと書きましたが、AIの投資対効果が低いと主張する人はネット上ではあまりいませんし、AIベンダーの営業もほとんどこういう話はしないと思います。AIプロジェクトに取り組むエンジニアやデータサイエンティストもはっきり言う人は少ないですね。

AIの投資効果が議論されると「AIの投資効果はお金や時間といった明確な指標では測れない」とか「投資効果が低いのはユーザーのせい」といった理屈で誤魔化されてしましますが、それが通用するのはAIバブルの中だけです。

目に見えるわかりやすい指標でAIの価値を証明できなければ、AIバブル崩壊後はあっという間にAIへの投資は打ち切られてしまいます。

リーマンショックのような不景気が来てももちろん速攻でAIへの投資は切られますし、AI以外の投資先が見つかれば徐々に投資額を減らされます。

ならば、AIバブルが続いている今のうちに定量的にも定性的にも誰もが認める形でAIの価値を証明する必要があるとおもいませんか?

なので、投資効果をシビアに評価することが重要だと思います。PoCの失敗も社内で共有し、次のPoCの成功のために知見を蓄積するべきです。AIがバブルではなく、本当に社会に必要とされるために、まずは過去のAIによる失敗を認めるところから始めるべきだと思います。

 

今AIにお金が集まっている理由、それは他に投資する技術がないから

ここからは自分の専門外の話なので、あくまで一人のAI関係者の想像だとおもって読んでください。

正直にいってAI界隈の人間がAIの期待値が低いという現状を認識せずに、夢だけを追って投資を続けているとは思えません。経営者や投資家の方も薄々AIの実情に気づいているのではないでしょうか?

じゃぁ、なぜAIにお金が集まるのかというと、理由は単純で余ったお金を投資するほかの投資先がないから、クラウド以後、ここ10年間で注目されたIT技術でAI以外に実用化に至った一般の人も認知している技術が思い浮かびませんし、私はAIに次に来る技術も思い浮かびません。

自分はこういうことはなんでもネガティブに考えるので、もしかしたらハードも含め、人類には投資すべきことが何もないだと考えてしまいます。社会人になってからあらゆるものにはライフサイクルがあると感じるようになりましたが、もしかしたら「人間」もしくは「文明」そのものが成熟期から衰退期に移行しているのかもしれません。

そんななか、夢もあって実用事例もそこそこあるAIにお金が集まるのは当然ですよね。

でも、世の中の目が覚めてしまえば、AIにお金が過剰に集まることはなくなり、AIバブルは終わります。そうなればAIは1つのIT技術としてITプロジェクトで使用できるときにだけ使われます。

AIバブルの崩壊がPoCの成功率高める

ここから本題のAIバブルが崩壊したあとのAI界がどうなるかですが、

冒頭でAIバブルの崩壊はむしろAI界にはプラスの効果をもたらすと書きました。それはAIバブルの崩壊後にPoCの成功率が上がると考えているからです。

先ほど、AIプロジェクトのPoCの成功率はやたら低く、1%~10%と書きましたが、私はAIバブル崩壊後はPoCの成功率は格段に上がると考えています。

PoCが成功しない一番の理由として、AIを活用すべきではないテーマで無理やりPoCを実施するから失敗することが挙げられます。

投資家や経営者にAI活用をアピールするために、無理やり予算を組んだ後、AI化のテーマを短期間ででっち上げてPoCを実施する例を何度も見てきましたが、その流れでPoCが成功した場面を一回も見たことがありません。

AI化のテーマは急に探して見つかるほど簡単に見つからないんですよね。

しっかりと問題点と理想像を検討したあと、複数の解決策の中からAIが選択された場合のPoC成功率は、計算していませんが、明らかに投資家や経営者のために無理やり作ったテーマ作った場合よりも高いです(というか無理やりテーマを作った際の成功率は0なので負けようがないです)。

ただ、実情は投資がらみのテーマの方がたくさんお金がつくので、データサイエンティストやエンジニアはそっちに優先的にアサインされてしまうんですよね。

でも、AIバブルが崩壊してしまえば、投資がらみのテーマはなくなり、本当にAIが解決すべきテーマのPoCが実施されます。そしたら確実にPoCの成功率は高まり、AIの投資効果も高まります。

 

AIバブル崩壊に備える

現状実施されているPoCテーマの半分以上は投資家や経営者のためのでっち上げテーマです。

となると、AIバブルが崩壊すればAIへの需要は確実に減衰します。そもそもお金が集まらなくなりますし・・・、

今AI業界にいる人は仕事が続けられなくなるのでは?と思っているかもしれません。自分も正直怖いです。まだ、IT業界のバブル崩壊を経験してないので、どういうことがあるか想像がつきません。

ただ、楽観的に考えている面もあります。確かにAI技術は利益をいまだって少ないかもしれないけど創出しているので、そういったプロジェクトを増やしていけばいいと思います。

正直、投資家や経営者を満足させるのが目的プロジェクトはバブルが崩壊すれば終了するので、たとえお金が動くとしても今から手を出さないようにしてもいいかもしれません(個人的には、「なんとなくAIやりたい案件」は、キャリア的に得るものがないので手は出しません)。

本当に期待できる利益に対しては、たとえバブルでなくても、それに見合うお金が集まります。なので崩壊前も崩壊後もその根拠となる実績を、地に足ついたプロジェクトで実現するほかないと思います。

最後にもう一つ、AI技術そしてAI関係者はもっと謙虚になるべきだと思っています。現状のAIを含むITプロジェクトにおいてAIはわがまますぎるんですよね。一つの要素技術のわりにあまりにも多くの要件をAI以外に部分に突きつけます。これはAIバブルの今だから通用することで、特別扱いされなくなればAIは使い勝手の悪い技術として使われなくなります。

時代の寵児としてもてはやされお金が集まってくるからといってAIという技術を甘やかしていると、熱が冷めたときに誰にも見向きされなくなります。稼ぐだけ稼いで稼げなくなったら潔く他に行くならいいですが(と言いつつ現時点でも稼げているところは限定的だと思います)、バブル崩壊後のことを考えるならAIを特別視せず、他の技術と協調してプロジェクト全体に貢献するような存在にしなければいけません。

それはAIを扱う人間も同じかもしれません。

AIバブル崩壊は目前かもしれないし、なんだかんだ何年もバブルが続くかもしれませんが、今から崩壊後を意識して働いた方がいいなと思いました。

それでは。